平成24年度 研究活動報告

研究目的

小規模自治体研究所(2009年7月発足)は、「小規模自治体における『自律』と『協働』の地域づくり」をメインテーマに、
学内の多様な分野の研究者と福島県内外の町村長がメンバーとなり、小規模自治体が直面している諸課題に対する実践的研究に、
自治体職員や地域住民と共同で取り組むことを目指している。

研究メンバー

研究代表者(研究所長)

  • 塩谷 弘康(福島大学行政政策学類・教授)

研究分担者(プロジェクト研究員)

  • 荒木田 岳(福島大学行政政策学類・准教授)
  • 今井  照(福島大学行政政策学類・教授)
  • 岩崎由美子(福島大学行政政策学類・教授)
  • 小山 良太(福島大学経済経営学類・准教授)
  • 境野 健兒(福島大学名誉教授)
  • 鈴木 典夫(福島大学行政政策学類・教授)
  • 大黒 太郎(福島大学行政政策学類・准教授)
  • 千葉 悦子(福島大学行政政策学類・教授)
  • 西崎 伸子(福島大学行政政策学類・准教授)
  • 松野 光伸(福島大学名誉教授)
  • 渡部 敬二(福島大学大学院地域政策科学研究科修士課程 2003 年度修了)

連携研究者(プロジェクト客員研究員)

  • 浅和 定次(福島県大玉村長)
  • 井関 庄一(福島県柳津町長)
  • 梅津 輝雄(宮城県七ヶ宿町長)
  • 大楽 勝弘(福島県鮫川村長)
  • 管野 典雄(福島県飯舘村長)
  • 竹内 昰俊(福島県会津坂下町長)
  • 長谷川律夫(福島県金山町長)
  • 目黒 吉久(福島県只見町長)

研究活動内容

「食を通じた女性たちによる地域づくり」の先進事例として阿武隈地域を研究対象としてきた小規模自治体研究所は、震災以降、震災によって失われた「かーちゃん(女性農業者)」たちのネットワークをつなぎ直す実践的な活動を展開している。本研究所は、国立大学協会「平成24年度震災復興・日本再生支援事業」(2012年4月1日~2013年3月31日)、ジャパン・プラット・フォーム(JPF)「共に生きる」ファンド第8次事業(2012年5月15日~8月14日)及び第10次事業(2012年10月1日~2013年3月31日)の助成を得て、「かーちゃんの力・プロジェクト協議会」と協働で、「〈食〉でつなぐコミュニティ・暮らし・地域の再生」事業に取り組んだ。

具体的には、主として、福島市及び二本松市(飯舘村及び浪江町住民避難先)及び三春町(葛尾村住民避難先)において、以下の4つの活動に取り組んだ。

 

1.「かーちゃん協働農場」として三春町に避難住民が協働で利用可能な農場を確保

かつてのように気軽に「農作業ができる場」がほしいとの要望が強かった葛尾村の住民を対象に、農地の管理が可能な人的資源と、住民間の広範なネットワークをもつ「葛尾村いきいき交流会」との連携のもと、三春町において、葛尾村住民を対象にした「かーちゃん協働農場」を開設し、多くの住民が自由に農作業に参加して交流を進める機会と場所を創出した(10月~3月)。

 

2.仮設住宅住民を対象に「植栽ポット」を配布し、「農作業」のできる環境を整備

仮設住宅住民の生きがいづくりと緑のある環境づくりを目指して、飯舘村と葛尾村の仮設住宅の住民を対象に、野菜栽培用の「植栽キット」一式(土、プランター、ゴーヤなどの苗他)を配布した(約320世帯対象)。仮設住宅での植栽セットの配布・設置、植栽などの作業は、福島大学生との協働によって実施したものである。

 

3.「食の技」伝承者を招いて料理講習会を実施し、若い世代への技の伝承を実現

伝統の<食の技>を記録するとともに、世代を超えた技の継承を目指して、仮設住宅や地域のコミュニティーセンターに福島大学生や、被災地域の若い世代の住民を招いて、「かーちゃん」たちによる伝統料理の講習会(おやき、だんごけい、かぼちゃまんじゅう、生芋こんにゃくなど)を開催した(5回)。食の技の伝承にとどまらず、食の技の商品化への一歩として位置づけられる。

 

4.仮設住宅住民自身による弁当づくりとその提供(食事会)を実施

福島市及び三春町の仮設住宅22か所において、弁当づくりと食事会を実施した。当初は、かーちゃんの力・プロジェクト協議会の笑顔弁当を試食する会だったが、次第に、仮設住宅の住民であるかーちゃんたち自らの手で、阿武隈の伝統料理を中心とした弁当を製作し、多くの参加を得て食事会を実施するかたちに変化していった。また、飯舘村の若い家族が避難する吉倉仮設住宅において、福島大学生が企画したクリスマスパーティーに子供たちを招待し、飯舘村出身の高齢者メンバーが作った弁当をメインディッシュに、阿武隈の伝統食を通じた三世代交流会を実現した。

事業の成果としては、①小規模自治体権研究所がプロジェクトを企画・実施する形式から、被災住民が自らがより主体的に個々のイベントの企画・実施の責任をもつ「被災者による自立的な活動」の形式への進展が見られたこと、②かーちゃんたち単独ではなく、「かーちゃん×学生」「かーちゃん×地域住民」で実施するコラボ活動が増え「協働」の幅が広がったこと、③「食の技」の伝統と技術を活かした加工食品の製品化という新たな生きがいづくり・仕事づくりの道筋を生み出すことができたこと、などがある。これらは「自立」と「協働」を目指す本事業の狙いに合致したものと言えるだろう。

一方、今後の課題としては、①小規模自治体研究所が引き続き支援を続ける部分と、かーちゃんたちが食品加工や販売などより自立的に活動を展開する部分との区別を意識しながら、活動の企画運営の主体を、大学側からかーちゃんたちを主体とした一般社団法人やNPO等へ移管していくこと、②事業の対象となった飯舘村、浪江町、葛尾村以外の阿武隈地域の自治体や仮設住宅でのプロジェクトの企画・実施も検討すること、③小規模自治体研究所の実践的活動から得られた成果や経験を、研究者の立場から相対化・客観化する作業を行うこと、などが挙げられる。

 
平成24年度活動報告書(PDF)
平成24年度収支決算報告書(PDF)

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